それはとある漫画での1コマ。
「あの”音色”(トーン)...俺は手に入れたぜ...?」
「幻のグリーンボックス...チューブスクリーマー808を...」
そう、ヤンキー漫画の金字塔「特攻の拓」です。
私はこの漫画が大好きでしてね、ヤンキー漫画なのに楽器関連の話がやたら詳しくマニアックに書いてあるんですよ。
若干16~18歳の男子が学校内で「BOOGIEに組む真空管EL-34あるか?」てなセリフを堂々と話している描写が出てくるくらいぶっ飛んでる漫画です。
そして最初のセリフ、音を追い求めた高校生が行きついた先が今回製作する物です。
TUBE SCREAMER TS808 / Ibanez
まぁ、名機ですよね。
わざわざ説明する必要もないくらい知れ渡っているエフェクターです。
現在でもリイシュー版が販売されているほど人気なヤツです。
こんなこと言うとアレですが、自作するより買った方が安いかもしれません(笑)
そもそもTUBE SCREAMER(以下TS)というエフェクターは無数に存在し、系譜なるものが作成されるほど長く愛され、改変に次ぐ改変を経て販売されています。
そんなTSの歴史についてもググってみると面白いのでおススメです。
販売当初のTS808はOD808/MAXONと全く同じ回路だったらしいです。
そもそもMAXONが国内販売してたOD-808をOEM製品としてIbanezが海外で販売してたってのが真実のようですね。
まぁ、TUBE SCREAMERという名前はIbanezで付けられたのでTSの元祖はTS808になるわけですがね。
あの漫画ではなぜ幻と呼ばれたのか?という疑問。
TS808は1979年販売されたエフェクターですが、リイシュー版が発売されたのは2004年らしく、特攻の拓が執筆された1991年から1997年にはあまり出回っていなかったのでしょうね。
それじゃ音を確認していきますか。
もうお馴染みの音ですね。
どのサイトでも伝えられているように「アンプライク」「中域に集中した音」が如実に表れているのではないでしょうか。
まぁ、TSって良いアンプありきで名機って呼ばれてる気がするので単体での使用は歪み難く使い難いものだと思います。
回路図見ましょう
※2021/04/22 回路図の定数が一部間違っていたため訂正させて頂きました。TONE回路のタンタルコンデンサが0.22uFのところ0.022uFと表記しておりました。
どうです?よく見るような回路でしょう?
世の中の多くのエフェクターが「TS系」と呼ばれる所以ですね。
オペアンプの負帰還回路にダイオードを入れてクリッピングして歪みを作る回路です。
本当はこの回路と並行してJFETスイッチ回路が入ってるんですけど今回は割愛。
回路構成は以下の通り。
①入力バッファー
トランジスタを使用したバッファー回路です。
CORNISHやKLONのバッファーに比べれば簡素な設計ですね。
エミッタフォロアで接続されており、位相を変えずにローインピーダンス化してます。
FETスイッチ回路の関係でTS-808はスルー時にも入出力バッファーを通過します。
トゥルーバイパス配線が流行った辺りでは既存のエフェクターをトゥルーバイパス!なんて謳い文句がちらほらありましたよね。
あ、入力直後の1MΩは勝手に足しました。
フットスイッチ操作したときの「ボンッ」って鳴るノイズの対策です。
いつものヤツですよ。
②増幅回路
負帰還回路にMA150というスイッチングダイオードを接続し、対称クリッピングを行うことで歪みを作っています。
増幅率はGNDに接続された10KΩと負帰還に接続された抵抗との比で計算するので最小時は約12倍、最大時では約118倍に増幅されることになります。
ちなみに500KΩを1MΩにすると約225倍になり、もっと増幅して歪むようになります。
ハイゲイン化!って改造はここの抵抗値を上げるか、バイアスの抵抗値を下げるかが主でしょう。
51pFは発振防止用です。
これはいつものヤツですね。
③トーン回路
Tube Screamerのトーン回路は独特な回路だと思うのですが、パッシブフィルターとアクティブフィルターが複合的に動作して形成されています。
トーンツマミが最小時は可変抵抗が
となるので、タンタルコンデンサ0.22uFと220Ωでローパスフィルターが形成され、高音成分が排除されます。
トーンツマミが最大時は可変抵抗が
となりオペアンプの非反転増幅回路が形成され、タンタルコンデンサ0.22uFと220ΩでGNDに流れた高音成分が増幅されます。
その際、オペアンプに接続された1KΩとGNDに接続された220Ωの分が増幅となるので若干ゲインが上がります。
実際にはハイパスフィルターと増幅の回路を複合してバンドパスフィルターが形成されるんですけど、そこを考え出すと結構複雑になります。
まぁ、なんとなくそういうものだと理解していて問題ないと思う。
んで、Gカーブという少し特殊な可変抵抗が使われてるんですがよく分からなかったんで色々調べてたところ、
ElectroSmashという海外サイトで紹介されてました。
https://www.electrosmash.com/tube-screamer-analysis
トーン回路の設計上、Gカーブが良かったんでしょうね。
今はWカーブとも呼ばれるようです。
私は使ったことないので分かりませんが、Bカーブでも代用可能でしょう。
④出力バッファー
ここで最終の音質調整がされてます。
入力と同じエミッタフォロアになってますね。
最終の部分で10uFと10KΩの組み合わせによりハイパスフィルターが形成されてますけど、かなり低い部分しかカットしてないんで音には影響少ないはず。
⑤電源回路
ここはよく見る回路です。
9V入力からのデカップリングコンデンサ100uFがあり、10KΩ×2本でバイアス電源(4.5V)を作る。
バイアス電源側にもデカップリングコンデンサ47uFが設置してあります。
今では普通の電源回路という認識ですが、当時はどうだったんでしょうね。
回路の流れはざっくりこんなところでしょうか。
改めて見てみても、これをイチから設計して販売し、今でも使い続けられているってのはやっぱり凄いことだと思いますね。
色んなエフェクターメーカーがこれを元にして様々なエフェクターを世に生み出していたのかと思うと感慨深いです。
それでは次回は製作編。
ではでは~